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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)26号 判決 1974年5月29日

東京都豊島区長崎二丁目一六番一九号

控訴人

株式会社 共栄木材社

右代表者代表取締役

藤田進

右訴訟代理人弁護士

坂本雄三

柴田政雄

立石邦男

同都同区西池袋三三番二二号

被控訴人

豊島税務署長

佐藤七郎

右指定代理人

松沢智

高見忠義

礎喜義

石川新

右当事者間の課税処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は、左のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和三八年五月二八日付でした控訴人の昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定(但し留保所得に関する部分を除く)並びに同年九月二五日付でした同事業年度の法人税の再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左のとおり訂正及び附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

一、原判決三枚目裏三行目の「同年五月二八日」を「昭和三九年五月二八日」と改める。

二、控訴人は、本訴により取消を求める処分(以下「本件処分」という)の違法事由としては、左に附加する以外には、昭和三五年一二月一二日に日興信用金庫と締結した契約を被控訴人が売買契約と誤認したことに関するもののみを主張するものであつて、その点を除き本件処分に関する計算関係等についてはすべて争わない。

三、本件処分が違法とされるべき理由に関する主張を以下のとおり附加する。

仮りに控訴人が昭和三五年一二月一二日締結にかかる契約により、原判決添附別紙目録記載の土地を訴外日興信用金庫に売却したものであるとしても、

(一)  控訴人は、その代金をすべて、右土地の代替地についての所有権等の取得と社屋、従業員宿舎等の建築のための資金に充てたのであつて、控訴人には譲渡益は全く生じていない。このような場合については、法人の営業用資産の買換えに当るものとして、租税特別措置法第六五条の四ないし同条の六の規定するところに従つて処理されるべきものであり、かつ、右に述べたような事情からすれば、控訴人の訴外日興信用金庫に対する原判決添附別紙目録記載の土地の売却は、実質的には、控訴人がその代金をもつて取得した土地、建物等との交換にほかならないものというべきであるから、これらの点を看過したことにおいても本件処分には違法性があるのみならず、

(二)  国民に節税の手段として法によつて許された形式に従つて控訴人が訴外日興信用金庫と契約を締結したことに関しては、懲罰を目的とした重加算税を課すべきものではない。

(被控訴代理人の陳述)

控訴人が当審において本件処分の違法性について附加した主張は、いずれも理由がないというべきであるが、前掲控訴代理人の陳述中三の(一)における主張につき特に左のとおり反論する。

(一)  法人税法上益金となるべき資産譲渡による所得に対する課税は、資産の値上りによりその所有者に帰属する増加益を所得として、当該資産がその所有者の支配を離れて移転する機会にこれを精算してする趣旨のものであると解され、対価を伴うかどうかにかかわらず、資産につきその移転において生じている増加益が課税の対象とされるのである。本件の場合では、控訴人は、その所有土地を訴外日興信用金庫に売却した時に、右土地について既に発生している資産利益すなわち値上りによる増加益を取得したのであつて、その際精算された右増加益が課税の目的とされるのであるから、控訴人の取得した金員がその後において他の資産の買換えに充てられたとしても、課税には何らの影響を及ぼすものではない。控訴人の訴外日興信用金庫に対する前記土地売却が控訴人の主張するように交換に当らないことは明らかである。なお、控訴人の援用する租税特別措置法第六五条の四ないし同条の六は、昭和三八年法律第六五号によつて追加された規定であつて、法人がその資産を昭和三八年四月一日以降に譲渡交換した場合に適用されるものであるところ、本件における控訴人より訴外日興信用金庫に対する土地譲渡はそれ以前のことであるから、右各規定の適用される余地がなく、控訴人から所定の申請書はもとより提出されるところがなかつたのである。

(証拠)

一、控訴代理人は、新たに当審における証人飯塚毅の証言を援用し、乙第一二号証の原本の存在及び成立を認めると述べ、

二、被控訴代理人は、新たに乙第一二号証(写)を提出した。

理由

一、控訴人の本訴請求中、昭和三五年四月一日から昭和三六年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分処び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消を求める部分については訴を却下し、右事業年度の法人税の再更正決定及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定の取消を求める部分については請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は、つぎのとおり訂正、附加するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決一二枚目表八行(タイプ印刷以外の手書きにかかる挿入部分に続く行。以下、右一二枚における行を挙示する場合についても同様とする。)目の「遂次」を「遂次」と、同九行目及び一〇行目の「担保物体」を「担保物件」と、原判決一三枚目裏九行目の「絶わつた」を「断つた」と、原判決一六枚目表八行目の「信義即」を「信義則」とそれぞれ改める。

(二)  原判決一二枚目表三行目から四行目の「当事者間に争いがない。」を「当事者間に争いがなく、前記再更正処分及び過少申告加算税と重加算税の各賦課決定における計算関係そのものの正確であることについては、控訴人の争わないところである。」と改める。

(三)  原判決一六丁裏七行目の下から四字目の「の」を削る。

(四)  控訴代理人の当審における陳述にかかる主張については、左に説示するとおりの理由によりいずれもこれを採用することができない。

控訴人と訴外日興信用金庫との間に昭和三五年一二月一二日成立した契約が土地の売買を目的とするものであることは、引用にかかる原判決理由において判示されている(原判決一四枚目裏七行目から一〇行目まで)とおりであり、控訴人においてその主張のように実質的には営業用資産の買換えのために右契約を締結したものであることを認めうる証拠はないのみならず、控訴人の援用する租税特別措置法第六五条の四ないし同条の六の各規定も、本件の場合には適用されるべきものでないことは、被控訴代理人によつて指摘されているとおりである。

更に、本件における重加算税賦課決定が節税の手段として法によつて許された形式に従つて控訴人と訴外日興信用金庫との間に締結された契約に関連してなされた懲罰を目的とする処分である旨の主張は、その前提自体事実に副わないものであつて、首肯するに足りない。

二、よつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条及び第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 桑原正憲 判事 西岡悌次 判事 青山達)

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